パトリシア・カミンスキー/FESディレクター



 エドワード・バッチ博士(1886〜1936)の数々の発見は、現代のフラワーエッセンス療法家やフラワーエッセンスの学術研究に携わるものにとっては貴重な贈り物です。さらに現代のフラワーエッセンス療法のセラピストが、ヒーラーとしてのバッチ博士の勇気と天才的な遺業を認識することは大変重要です。彼は治療というものは人間の身体と魂に深く関わっていなくてはならない、つまり、人の内側の感情や思いは個人の全体的な健康状態と親密に関連が深いと主張して、先駆者としてたった一人でこの研究に立場をとった人でした。バッチ博士はヒーラーとして鋭い洞察をもっていたばかりでなく、植物研究の新しいあり方の探求には並外れた能力がありました。彼は、花がじつに精密なかたちで人間の魂がもつ生来の資質と相互関係にあるという可能性を認識していたのです。

 バッチ博士は、ひとつの画期的なヒーリングの形態において礎を築きました。しかし1929〜1936年という七年間の短い年月の研究では、その体系を確立するには至りませんでした。ヒーラーとしてのバッチ博士の永遠に変わらない仕事のパターンを見ると、彼の研究が絶えず進展していたことがよく分かります。彼は「Twelve Healers and the Seven Helpers」という著書を出版したとき、それが最終のものであると見なしていたのですが、亡くなる前の年に、フラワーエッセンスのレパートリーに19の新しいレメディーを加えることで二倍にしたのです。バッチ博士は当時の伝統的な医学の信念を打ち破ることによって全く新しい治療法を打ち立てた、たった一人の先駆者でした。しかしながら、彼の魂の繊細さと孤立な立場はまた、わずか50歳という若さで早すぎた死を迎える原因となったのかもしれません。

 1978年に始まった最初の研究で、リチャード・キャッツとパトリシア・カミンスキーはバッチ博士の研究を発展させて行こうというインスピレーションを感じました。これまで二人は世界中のプラクティショナーとの協力の下、フラワーエッセンスに関する研究、指導、教育活動を推進するフラワーエッセンス協会(Flower Essence Society)を運営してきました。FESの研究は以下の三つの主要な研究目標とともに、今、二十年を超える期間にかかっているところです。(注:この記事は、2003年に書かれています。)



1) 症例の資料や分析を通して比類のないフラワーエッセンス療法に関する
  ヒーリングパラダイムの一体系を定義すること。


ゴールは、フラワーエッセンスのヒーリングにともなう現象を理解すること、現代の深層心理学やホリスティックな健康法、および霊的な叡知を探求する様々な方法などから得られる洞察を包括し融合させた、プロフェッショナルなレベルにおける魂の療法を発展させること。

2) フラワーエッセンスの対象となる植物の野外研究をとおして
  生きた自然科学を樹立すること。


ゴールは、植物の資質がどのようにフラワーエッセンスのヒーリングの特性に反映しているかを知るために、植物学、化学、数学などの科学的方法論と融合させて解釈していく霊性をともなった科学的な理解力を獲得すること。

3) カリフォルニアと北アメリカの地域における広範囲の植物相から、
  現代に生きる魂を癒すための新しいフラワーエッセンスの開発。


ゴールは、深いレベルに作用し効果のあるレメディを用いて、現代の魂にチャレンジを促しヒーリングに導く課題に応えること。


バッチ博士を超えて:私たちの時代のヒーリングチャレンジ
 バッチ博士は彼の時代の文化を広範囲にわたって深く生きた慈愛と繊細さの人でした。彼の仕事は第一次世界大戦におけるイギリス軍の負傷兵の治療から始まりました。そこで彼は、恐ろしいほどの苦悩……体だけでなく魂の苦しみを……19世紀の素朴な楽天主義をみじんに粉砕する、語ることもできないほどの世界の大惨事を目の当たりにします。30年代のナチズムとファシズムの台頭と並行して起こった大恐慌により、すべての人類のうえに絶望と不安がもたらされたのです。実にきびしい苦悩に満ちた時期で……事実全世界の精神文化における魂の「荒廃」と言えるような時代でした。この状況のもとでどのようにしてバッチ博士は38種のレメディを開発研究したのか、またそのレメディーの主なテーマが何故、孤独、落胆、精神的な苦痛、感情の抑圧、そして恐れであったのかを私たちは理解することができます。

  これらの魂の大変な状況は世界の精神文化と直面し続け、70年前にバッチ博士のフラワーレメディが重要であったように、今日においてもそれらはなくてはならないものです。しかしながら、バッチ博士の死後、数十年が経過し、様々な文化的進展はフラワーエッセンス療法にとって全く新しい情況を提供してきました。例えば、アブラハム・マスロー(1908〜1970)に基礎をおいた人本主義的なトランスパーソナル心理学の発展は、個人が文化の規範または期待に適応することよりも、人間が潜在的に持つより高いゴールをめざす自己実現を強調しています。スイスの精神病医学者であるカール・ユング(1875〜1961)は魂の広大な領域に関して著述し、文献を残しています。彼は「影」そのほか人間のアイデンティティがもつ無意識の側面は抑制を受けてはならないこと、または単に「ネガティブ」と見なすべきではない、むしろ自己「Self」の全体性をとりもどし、統合されるべきであるという考え方を確立しました。ユングは、人間の魂の内において浮上するアーキタイプの広大なパノラマを、錬金術的な変容への豊かな可能性を提示しながら概説しました。

 ユング博士のアーキタイプ的なヴィジョンの上に、イタリアの精神医学者ロベルト・アサッギオーリ(1888〜1974)は「精神総合」"Psychosynthesis"という精神療法の学校を設立しました。そこで彼は、様々なタイプの副人格または人にそなわるアーキタイプ的な資質を説明するための基本原理である、核となる霊的自己 (a core spiritual self) の理論を仮定したのでした。この初期の三人の指導者達に加えて、近代の精神療法の分野には数えきれない程の多くの貢献者がありました。そして彼らのケースワークと理論モデルは、人間の魂の広大な深みを明らかにし、魂の肉体と霊性への強い影響力を実証しつづけています。

 近代精神療法による研究の上に、フラワーエッセンスのセラピストにより報告される臨床研究の現象を積み重ねて、the Flower Essence Society (FES) では魂のアイデンティティを示す八つの基本的な領域を確認しています。魂の癒しの段階を示すこれらのレベルは、the Meta-Flora Approach to the Human Soul(人類の魂の癒しおよび進化のためのメタフローラアプローチ)と呼ばれ、FESのプラクティショナー・トレーニングの根幹となっています。人間の魂を癒す仕事とは、以下の項目に示されます。すなわち、

1)生まれた文化や家族から受け継いだ、信念体系と感情の基本的な器
2)肉体のアイデンティティと魂の関係と、物質世界で身体に在って存在すること。
3)精神の学びにおける潜在的な能力と、人間の魂の錬金術的な変容力。
4)職業や社会奉仕をとおして、この世界に才能や目的を見出し実現する力。
5)人間関係、芸術的追求および精神的な目覚めをとおして開花する、
魂の内なる繊細さ。
6)カルマ、死、苦しみと遭遇し、それらを改め、許し受け入れる能力。
7)魂の核となる霊的アイデンティティの目覚めと、それにともなう変容、
昇華の経験を受容すること。
8)上記七つの魂の進化のレベルにおけるすべての側面を包含する最終段階は;
地球が生きた生命体であるという深遠な気づきを、人類の魂の内に抱くことです。
 

 この八つのステージはすべての真の錬金術的な研究の霊的な最終ゴールでした。つまり人間の進化は、地球自身の進化とともに密接に編み込まれていることを認識することです。この考え方から、フラワーエッセンス療法そのものが最高の錬金術的可能性をもつきわめて優れた形のものであることを…地球の表現である花をとおして人間の魂を大自然の魂と整合させるよう導くものであることを…私達は高く評価できるのです。

 これら魂の発達の八つの領域はそれぞれ別の事象ではなく、ひとつの花を形成する一片の花びらように密接に編み込まれている側面なのです。熟練したフラワーエッセンスの治療家は、当面の問題を単に「修復すること」を越えて進みます。真のゴールは、より大きな全体性と統合に向かって個人の魂が目覚めるよう導くことです。すでに十分サイコセラピーの分野で証明されているように、パーソナリティの下にはさまざまな副人格やアーキタイプと呼ばれる側面があります。そしてそれらの多くは、真の「霊的自己」(Spiritual Self) を形成するためにそれぞれの要素の関係性を調和していく必要性に直面します。このフラワーエッセンスを通して行うヒーリングの方法は、症状に対処する医学的な治療法からは著しく異なり、より全体性のある、魂の深みへのアプローチを伴います。



男性−女性の意識:基礎的なアーキタイプ
 上記で概説した魂のアイデンティティの八つのレベルを考察するとき、すべてのレベルに浸透するもっとも基本的なアーキタイプのひとつは男性意識、女性意識の魂の関係性であることが分かります。私たちは妊娠の瞬間に、男性と女性の資質を色分けされます。私達が最も強い価値感や信念、または偏狭な考え方などを身につけるのはまさにこのフィルターを通してなのです。これらは家族やコミュニティの中でかたちづけられるばかりでなく、国、文化さらに宗教的な背景においても形成されます。私たちの男性性と女性性に関する理解は、自分の肉体や性のアイデンティティをどのようにとらえるかに影響を与えます。これらの考え方は結婚や家族というもっとも親密度の高い関係や、どのように職業を決定するか、人生の運命にどのように近づくかといった事柄を選択する場合に大きく影響を与えます。最も深い意味において、男性性と女性性の資質は霊の世界との関係性の基礎をもかたちづくるのです。事実、母なる地球に祈り、父なる神に守護の祈りを捧げるとき、私たちの魂は導かれ、これらのアーキタイプを通して純粋なレベルで、高次の領域への架け橋がかります。同様にこれらのアーキタイプを通して見ることのできる世界のゆがみや苦痛が、近代的な文化の中でどのようにして人間の魂を絶え間なく荒廃させているかを知ることができるのです。

 男性性と女性性のアーキタイプ的な気づきは、FESのメタフローラ・システムで取り扱う魂の癒しに関する新しい展望の一例です。この基礎的な段階は、バッチ博士の体系では直接的には言明されていなくて、むしろ、バッチ博士の時代以降に発展したサイコセラピーの分野で徐々に認識されていることを反映しています。以下にこうした資質をもつ鍵となるフラワーエッセンスを紹介します。





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